月照～ツキノテラス
準推薦
■制作者／さくらミント（ダウンロード）
■容量／92.4MB
大学を出て２年間、がむしゃらに働いていた主人公は、ある日体を壊した事が原因で、会社をクビになる。お金を稼がないと生活できないので、とりあえず適当にバイト先を選んだ。その店の名は「シャンティ」。そこで出会った「マイ」という"女の子"。開始５分で、あまりの異色ぶりにぶっ飛ぶ、短編「恋愛」ノベル。
ここが○
- 綺麗なグラフィックス。音楽も良。
- ヒロイン（？）のマイが大変魅力的。主人公との会話文も軽快。
- 非常に上質の余韻を残してくれるラスト。
ここが×
- 言ってしまえば、非常にありがちな物語。
- マイの設定が、お話自体に活かされているとはちょっと言い難い気も。
- このプレイ時間としては容量がかなり巨大。
■大切な指環は嵌めないでおこう
ずっと「病院もの」が続きましたが、久々に普通の、しかも軽く読める短編です。今回ご紹介は「月照～ツキノテラス」。短編作品ですが、グラフィックスはキャラ立ち絵、１枚絵を含めて大変美しく、またオプション画面などもやたら凝っており、制作者さんのかなりのこだわりを感じさせます。更に、ヒロインのマイは、フルボイス。そのせいで容量が大きくなってしまってるんですが、なかなかの好演で、ヒロインの魅力を際立たせていると思います。
この作品は、いわゆる「ボーイミーツガール」もので、分類すれば「恋愛もの」なんですが、その設定がぶっ飛んでいます。主人公のバイト先は「ニューハーフパブ」で、マイはそこに勤務しているという訳で、ヒロインが男性という、前代未聞の作品となっているのです。もちろん、立ち絵やボイスはまるっきり女の子なんですが、予備知識を入れずにこの作品をプレイした私は、思わず噴きそうになりました（爆）。奇抜な設定の作品と言えば、「キャバ嬢 A GOGO!」がありまして、あの作品にも驚かされましたが、今作にはそれ以上に驚かされました。
とは言え、キャバクラ内の描写もかなりあり、ある意味濃かった「キャバ嬢」と比べると（それがあの作品の良さですが）、今作はほとんど日常描写である上、マイの特殊な特徴に言及するような場面はほとんどなく、普通の恋愛ものの感覚でサクッとプレイできます。個人的には「おいおい、いいのか？」と思ってしまいましたけど（苦笑）。恋愛ものの肝となる、微妙な心理描写なども上手く、快適に読めます。また、ヒロイン（と言えるのか？）のマイのキャラクターが魅力的で、主人公との軽妙なやり取りも良いですね。
シナリオ自体は、極めてよくある話です。びっくりするような設定に反して、ごくごく普通のお話で、捻りもありません。そして、個人的にですが、マイの設定がシナリオであまり生きていなかったように思うんですよね（マイ自体が魅力的なキャラであるとかとは別の問題として）。普通の女性でも、何ら問題なかったような気がします。ここらには、マイの特徴を絡めて、シナリオにもう一捻りが欲しかったように思います。
さて、この作品で一番感心したのは、絶妙に後をひく上に大変上質な「余韻」です。本編の終わり方もさることながら、最後に挿入されるエピローグには、目頭が熱くなる人もいるでしょう。この「終わり方」というのはことのほか難しく、「本編で語るべき点をエピローグに詰め込んで」しまうと、「おいおい、そこで終わるか」とツッコミを入れたくなるような、尻切れトンボに終わりますし、「本編で語り尽くしたのに、更にエピローグを持って来る」と、「それは蛇足だろ」と、やはりツッコミを入れたくなります。
そしてこの作品の場合は、本編の終わり方と、更にそれを補完するエピローグが素晴らしく、ハッピーエンドとは言えない終わり方ですが、素晴らしい読後感を生んでいるのです。この辺りは、他の制作者の方にも参考になるのではないでしょうか。
シナリオにもう１つ２つ押しが足りない感はありますが、短編作品ですからこのくらいの方がかえって気軽に楽しめるというものかも知れません。歌の演出は良かったですね。エンディングも非常に綺麗。プレイ時間は40分程度。選択肢はありませんので、読むだけです。恋愛ノベル好きに限らず、広くお勧めできる作品です。容量が大きいですが、まずはダウンロードしてみてください。